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兵庫考古学研究最前線2019「考古学からみた人形ながし」

一年も終わりに近づき、「今年もいろんなことがあったなぁ」と思いかえす時期です。
むかしから人は災いがおきる原因が、知らないうちに身体にたまった「ケガレ」がひきおこすと信じていました。
こうしたケガレを自分の身替りにうつして水に流し、災いを絶つことが古代から行われています。

12月7日(土)、シリーズ講演会・兵庫考古学研究最前線2019第3弾、
「考古学からみた人形ながし」を開催しました。
講師は、兵庫陶芸美術館の藤田 淳 所長補佐兼学芸課長。
砂入遺跡(豊岡市)で古代のおまつりの様子を調査されました。
今回は遺跡から遺跡から発掘されたおまつりの様子や道具について
講演いただきました。

テーマの人形は、私たちが知っているものと少し違います。
まずはじめに、「人形(ヒトカタ)とはどのような形をしていて、
どんな役割を持つものか?」という説明から始まりました。

考古学では、「ヒトを模してつくったおまつりの道具」のことを指します。
遺跡で見つかる多くは木製品ですが、平安中期に記された『延喜式』などには、
木に金銀を塗ったものや、鉄製の人形もあると記録されています。

ちなみに遺跡から出土したものでは、全長20cm程度のものから
1m以上ある大きなものまで、大きさはいろいろです。
人形は、古代の宮中でおこなわれた「祓(はらえ)」の行事に由来します。
毎年6月と12月の末日=晦日(みそか)に行われる大祓(おおはらえ)では、
半年の間にたまったケガレを、自分や親しい人に似せた人形にうつして
水に流し、身を清めるために行われました。 
また2体の人形を隣り合わせて、二人の良縁を願うという、
使い方もあったとのことです。

続いて考古学からみた人形を始めとする木製のおまつり道具について説明がありました。
人形や馬形、斎串は多くの出土例から、
時代とともに形の変化を知ることができます。
人形では頭や肩の形から、いくつかのまとまりに分類できるとのこと。

実は日本国内で最多の出土数を誇るのが袴狭遺跡群(豊岡市)です。
その一つである砂入遺跡の発掘調査について、写真や図で紹介がありました。

砂入遺跡は、そばで有名な豊岡市出石町にあります。
小野川の河川改修にともなって、発掘調査が行われ、
奈良時代のはじめ(今から1300年前)の川の跡と、
周辺で行われたおまつりのあとがみつかりました。

遺跡では、数多くの人形・馬形などを使って川に流した様子が見つかりました。
行われたおまつりの様子が発掘調査されるのは大変珍しいことです。

人形や斎串は同じ方向に向きもそろえて置かれていたのに対して、、
馬形は位置も向きもばらばらに見つかりました。
おまつりに用いる祭祀具も種類によって使われ方が異なるとわかりました。

近くには、同じく大量の木製祭祀具が出土した袴狭遺跡がありますが、
時代や特徴が異なります。
おまつりの時代による変化なのか?別の性格をもつおまつりなのか?は、
今後さらに研究で明らかにしたい、とのことです。

また県内外で発掘された古代の「おはらい」を行った遺跡について紹介がありました。
遺跡ごとに祭祀具や出土した場所がちがい、時代や目的でおまつりの
やり方に、ちがいがあることがわかってきた、とのこと。
「今後ますます調査例が増えれば、袴狭遺跡群の調査との比較検討がすすみ、
古代のおまつりがより詳しくわかってくる」としめくくられました。

講演終了後には、常設のテーマ展示室で
木製祭祀具の実物を前に、解説いただきました。
壁一面に展示された、いろんな形の祭祀具があります。
墨で顔を書かれた人形は、どこかユーモラス。

考古博でも人形ながしをモデルにした体験の展示があります。
「祓(はらえ)」に思いを託した古代人の気持ちを、
身近に感じられるかも知れませんね。ご来館の折には、ぜひどうぞ。



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