1月27日、熊本城跡にあった古墳時代の横穴墓から「甲子年五月中」の銘文のある鉄刀が見つかったと発表されました。当館にも「戊辰年五月□(中か?)」の銘文がある国重要文化財の鉄刀(兵庫県養父市箕谷(みいだに)2号墳出土)が保管されています(文化庁所有)。
鉄刀の制作年がそれぞれ西暦604年、608年と推定(60年ごとに同じ名前の年が巡ってくるために特定できない)されており、比較的制作年代が近い作品です。しかも、「五月」に制作されたという共通点がありますが、これは偶然なのでしょうか。
当館の分館である古代鏡展示館(兵庫県加西市)には、「五月五日造」の文字のある鏡があります。隋~唐の時代の八瑞獣紋鏡(八匹のおめでたい獣が表された鏡)で、上記の鉄刀とは年代も近いのですが、これだけ「五月」がそろうと、そこには単なる偶然ではなく、意味があるように思われます。
八瑞獣紋鏡(加西分館蔵)
古代の日本と中国では、五行説(五行思想)という考えが広まっていました。すべての物は火・水・木・金・土の五種類から成り立っていて、それらが互いに影響を与え合い、循環している、というものです。
この思想では、旧暦の五月とは夏至を含む夏であり、銘文にある「五月」は熱・火を使って鍛造や鋳造をするのに縁起がよい日付であったようです。
こうした五行説の考えや、多くの作品が「五月」制作と記されていることから、これらは実際に五月に制作されたというよりは、縁起がよい日を作品に記し、作品の品質、価値を保証することを目的に記されたのではないでしょうか。
(館長補佐 中村 弘)